綾衣はその自由が羨ましく妬ましく
綾衣はその自由が羨ましく妬ましく思われてならなかった。妬み深いのは廓の女の癖であると、彼女は自分で自分を戒めて、ひとを羨むのは恥かしいとも思った。妬むのはおとなげないとも思い直した。そうは思いながらも、二人の低い笑い声などが耳にはいると、綾衣は襖越しに何か皮肉なことばでも投げつけてやりたいような気がしないでもなかった。 「ほんに馬鹿らしい」と、綾衣は自分をまた叱った。外記の来る夜のことを考えたら、十吉の邪魔などのできた義理ではない。自分はなぜこう心がひがんで来たのかと、彼女はおのれを卑しみながら心はやっぱり二人の話し声の方に惹きつけられていた。...