こう云う彼等の感情の変化は、勿論彼自身も見逃さなかった
高天原の国の若者たちは、それ以来この容貌の醜い若者に冷淡を装う事が出来なくなった。彼等のある一団は彼の非凡な腕力に露骨な嫉妬を示し出した。他の一団はまた犬のごとく盲目的に彼を崇拝した。さらにまた他の一団は彼の野性と御目出度さとに残酷な嘲笑を浴せかけた。最後に数人の若者たちは心から彼に信服した。が、敵味方の差別なく彼等がいずれも彼に対して、一種の威圧を感じ始めた事は、打ち消しようのない事実であった。 こう云う彼等の感情の変化は、勿論彼自身も見逃さなかった。が、彼のために悲惨な死を招いた、あの猪首の若者の記憶は、未だに彼の心の底に傷ましい痕跡を残していた。この記憶を抱いている彼は、彼等の好意と反感との前に、いずれも当惑に似た感じを味わないではいられなかった。殊に彼を尊敬する一団の若者たちに接する時は、ほとんど童女にでも似つかわしい羞恥の情さえ感じ勝ちであった。...