Overblog
Suivre ce blog Administration + Créer mon blog

なあに、こっちの迷惑より

「なあに、こっちの迷惑より、そういう御様子ではさぞ御当惑をなさるでありましょう、こう遣って、お世話になるのも何かの御縁でしょうから、皆さん遠慮しないが宜しい。」 と二人で差向で話をしておりまする内に、お喜代、お美津でありましょう、二人して夜具をいそいそと持運び、小宮山のと並べて、臥床を設けたのでありますが、客の前と気を着けましたか、使ってるものには立派過ぎた夜具、敷蒲団、畳んだまま裾へふっかりと一つ、それへ乗せました枕は、病人が始終黒髪を取乱しているのでありましょう、夜の具の清らかなるには似ず垢附きまして、思做しか、涙の跡も見えたのでありまする。...

Lire la suite

で、兩つ提へ煙管を突込み

で、兩つ提へ煙管を突込み、 「へい、殿樣へ、御免なせいまし。」と尻からげの緊つた脚絆。もろに揃へて腰を屈めて揉手をしながら、ふと見ると、大王の左右の御傍立。一つは朽ちたか、壞れたか、大破の古廟に形も留めず。右に一體、牛頭、馬頭の、あの、誰方も御存じの――誰が御存じなものですか――牛頭の鬼の像があつたが、砂埃に塗れた上へ、顏を半分、べたりとしやぼんを流したやうに、したゝかな蜘蛛の巣であつた。 「坊主は居ねえか、無住だな。甚く荒果てたもんぢやねえか。蜘蛛の奴めも、殿樣の方には遠慮したと見えて、御家來の顏へ※を掛けやがつた。なあ、これ、御家來と云へば此方人等だ。其の又家來又家來と云ふんだけれど、お互に詰りませんや。これぢや、なんぼお木像でも鬱陶しからう、お氣の毒だ。」...

Lire la suite

あとの大戸を、金の額ぶちのように背負って

あとの大戸を、金の額ぶちのように背負って、揚々として大得意の体で、紅閨のあとを一散歩、贅を遣る黒外套が、悠然と、柳を眺め、池を覗き、火の見を仰いで、移香を惜気なく、酔ざましに、月の景色を見る状の、その行く処には、返咲の、桜が咲き、柑子も色づく。……他の旅館の庭の前、垣根などをぶらつきつつ、やがて総湯の前に近づいて、いま店をひらきかけて、屋台に鍋をかけようとする、夜なしの饂飩屋の前に来た。 獺橋の婆さんと土地で呼ぶ、――この婆さんが店を出すのでは……もう、十二時を過ぎたのである。 犬ほどの蜥蜴が、修羅を燃して、煙のように颯と襲った。...

Lire la suite

ひさしぶりに銭湯へいった

銭湯へ行くなんて何年ぶりだろうと思いましたが、本当に思い出せないくらい久しぶりなのは確かなことです。 銭湯独特のにおいと音が懐かしかったです。 広い浴槽にあつすぎるお湯。固定のシャワー、それにピンクと青の蛇口。 なんだか昭和の香りがしてとても懐かしい気持ちになりました。 今時のスーパー銭湯はたまに行くことがあっても、普通の銭湯はそもそもあまり見かけませんね。 どうしても行きたくなって衝動のように行ってしまいましたが、お風呂と言うよりもむしろイベントみたいな非日常性があってとても楽しかったです。 これでまた梅雨の季節をのりきれそうです。...

Lire la suite

はめ込むのが意外と難しいかったです

朝パソコンをしていて、クリアファイルを手に取ろうとしたら、パソコンの上に落してしまいました、落ちどころが悪くてクリアファイルの外側の表紙の薄いプラスチックの部分がパソコンのキーボードの間に入り込んでしまい、パンダグラフ式のキーボードの1つが外れてしまいました。 これがまたはめ込むのが大変で、上の文字の部分だけならばすぐに付けられるのですが、下のパンタグラフの部分もすべて外れてしいました。部品が細かくてピンセットでつままないと上手くできません。部品を固定している突起物がすき間になかなか入らなくて、つまんでいる部品がずれてしまうのを何度も繰り返して、結局30分近く時間がかかってしまい、朝から余計な仕事が増えてしまいました。...

Lire la suite

 鐘の音も聞えない。

鐘の音も聞えない。 潟、この湖の幅の最も広く、山の形の最も遠いあたりに、ただ一つ黒い点が浮いて見える。船か雁か、※※か、ふとそれが月影に浮ぶお澄の、眉の下の黒子に似ていた。 冷える、冷い……女に遁げられた男はすぐに一すくみに寒くなった。一人で、蟻が冬籠に貯えたような件のその一銚子。――誰に習っていつ覚えた遣繰だか、小皿の小鳥に紙を蔽うて、煽って散らないように杉箸をおもしに置いたのを取出して、自棄に茶碗で呷った処へ――あの、跫音は――お澄が来た。「何もございませんけれど、」と、いや、それどころか、瓜の奈良漬。「山家ですわね。」と胡桃の砂糖煮。台十能に火を持って来たのを、ここの火鉢と、もう一つ。……段の上り口の傍に、水屋のような三畳があって、瓶掛、茶道具の類が置いてある。そこの火鉢とへ、取分けた。...

Lire la suite

「いや知っています。」

「いや知っています。」 これで安心して、衝と寄りざまに、斜に向うへ離れる時、いま見たのは、この女の魂だったろう、と思うほど、姿も艶に判然して、薄化粧した香さえ薫る。湯上りの湯のにおいも可懐いまで、ほんのり人肌が、空に来て絡った。 階段を這った薄い霧も、この女の気を分けた幽な湯の煙であったろうと、踏んだのは惜い気がする。 「何だろう、ここの女中とは思うが、すばらしい中年増だ。」 手を洗って、ガタン、トンと、土間穿の庭下駄を引摺る時、閉めて出た障子が廊下からすッと開いたので、客はもう一度ハッとした。...

Lire la suite

はい、と言ふ口の下から

はい、と言ふ口の下から、つけさしのマツチをポンがお定まり……)唯、先生の膝にプスツと落ちた。「女中や、お手柔かに頼むぜ。」と先生の言葉の下に、ゑみわれたやうな顏をして、「惚れた證據だわよ。」やや、と皆が顏を見る。……「惚れたに遠慮があるものかツてねえ、……てね、……ねえ。」と甘つたれる。――あ、あ、あ危ない、棚の破鍋が落ちかゝる如く、剩へべた/\と崩れて、薄汚れた紀州ネルを膝から溢出させたまゝ、……あゝ……あゝ行つた!……男振は音羽屋(特註、五代目)の意氣に、團十郎の澁味が加つたと、下町の女だちが評判した、御病氣で面痩せては、あだにさへも見えなすつた先生の肩へ、……あゝ噛りついた。...

Lire la suite

花袋、玉茗兩君の名が

花袋、玉茗兩君の名が、そちこち雜誌類に見えた頃、よそから歸つて來るとだしぬけに「きみ、聞いて來たよ。――花袋と言ふのは上州の或大寺の和尚なんだ、花袋和尚。僧正ともあるべきが、女のために詩人に成つたんだとね。玉茗と言ふのは日本橋室町の葉茶屋の若旦那だとさ。」この人のいふのだからあてには成らないが、いま座敷うけの新講談で評判の鳥逕子のお父さんは、千石取の旗下で、攝津守、有鎭とかいて有鎭とよむ。村山攝津守有鎭――邸は矢來の郵便局の近所にあつて、鳥逕とは私たち懇意だつた。渾名を鳶の鳥逕と言つたが、厚眉隆鼻ハイカラのクリスチヤンで、そのころ拂方町の教會を背負つて立つた色男で……お父さんの立派な藏書があつて、私たちはよく借りた。...

Lire la suite

大變です

「大變です。」「……」「化ものが出ます。」「……」「先生の壁のわきの、あの小窓の處へ机を置いて、勉強をして居りますと……恁う、じり/\と燈が暗く成りますから、ふいと見ますと、障子の硝子一杯ほどの猫の顏が、」と、身ぶるひして、「顏ばかりの猫が、李の葉の眞暗な中から――其の大きさと言つたらありません。そ、それが五分と間がない、目も鼻も口も一所に、僕の顏とぴつたりと附着きました、――あなたのお住居の時分から怪猫が居たんでせうか……一體猫が大嫌ひで、いえ可恐いので。」それならば爲方がない。が、怪猫は大袈裟だ。五月闇に、猫が屋根をつたはらないとは誰が言ひ得よう。……窓の燈を覗かないとは限らない。しかし、可恐い猫の顏と、不意に顱合せをしたのでは、驚くも無理はない。……「それで、矢來から此處まで。」「えゝ。」と息を引いて、「夢中でした……何しろ、正體を、あなたに伺はうと思つたものですから。」...

Lire la suite

1 2 3 4 5 6 7 > >>