そのね、手水鉢の前に
そのね、手水鉢の前に、大な影法師見るように、脚榻に腰を掛けて、綿の厚い寝ン寝子で踞ってるのが、何だっけ、君が云った、その伝五郎。」 「ぼけましたよ、ええ、裟婆気な駕籠屋でした。」 「まったくだね、股引の裾をぐい、と端折った処は豪勢だが、下腹がこけて、どんつくの圧に打たれて、猫背にへたへたと滅入込んで、臍から頤が生えたようです。 十四五枚も、堆く懐に畳んで持った手拭は、汚れてはおらないが、その風だから手拭きに出してくれるのが、鼻紙の配分をするようさね、潰れた古無尽の帳面の亡者にそっくり。 一度、前幕のはじめに行って、手を洗った時、そう思った。...