私は責任をヘッセの著書に譲り渡し

Publié le par rikairyoku

私は責任をヘッセの著書に譲り渡し、それで気が済んだつもりでいたが、そうは行かなかった。あれだけ虚無の魅力に牽付けられた疲れた人間が、なかなか文学や説明や詩で蘇らせられようとは思えなかった。そこで三度目のフロウナウ町行きとなった。せめて青年のその後の様子だけでも見たいと思ったからである。停車場のレストーランへ行くと、青年は女の連れと一緒に仏陀寺へ行ったということだったので、私も不必要な仏陀寺へ三度目の参詣をした。  急に春めいて来て、町の街路樹はすっかり萌黄の芽を吹き、家々の窓や墻根から色々の花さえちらほら見えた。寒さからのがれた空はたるんで、暖かい光の中に痴呆性の眼の色のようにぼんやりしていた。  仏陀寺の中を探し廻って私は、矢張りあの本堂の石碑の前で、青年と連れの女とに出会った。私が教えたように青年は手を合せ、連れの女も並んで同じ形をしていた。 木のがま口 tomosibi - 暗夜に灯を失う

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